IoTやAIの技術を工場へ取り入れ、生産性向上や品質改善などを目指す“IT(情報技術)とOT(制御技術)の融合”が製造業で進められています。
しかし、そのようなデジタル変革をなかなか思うように進めづらいと感じることはありませんか?
その最大の理由は、技術の課題ではなく“産業エッジに存在する相互運用性の欠如”が根本にあります。
現場には、長年稼働し続けてきた多様な機械や制御システムが混在しています。
・A社の機械はA社独自の方法でしかつながらない
・B社の装置はB社の方法でしか機能変更できない
・更新方法も、ソフトウェアの作り方も、通信仕様も製品ごとにバラバラ
これは、まるで異なる言語を話す人々が集まった“バベルの塔”のような状態です。この産業エッジの分断の結果、以下のような問題が現場に重くのしかかります。
・メーカーごとの仕様差を埋めるためのカスタム開発が膨大
・AIや新たなアプリケーションを導入するたびに、時間のかかる個別検証が必要
・PoCは成功しても、本番展開や多拠点展開がスムーズに進まない
この深刻な問題に対し、2024年にLinux Foundationの元で始動したのが“margo(マーゴ)”です。margoとは、ラテン語で“エッジ”を意味します。
margoの創設メンバーにはABB、Rockwell Automation、Schneider Electric、Siemensといった、普段は激烈に競争する産業オートメーション製品の大手企業が名を連ねます。
そこに、Red HatやMicrosoftなどのITの主要プレイヤーも加わり、ITとOTが本格的に交わる初のグローバル標準化イニシアチブとして注目されています。
margoの狙いはシンプルです。
業界が共通で使える“産業エッジの交通ルールを作ること。
マルチベンダーの相互運用性を妨げる要因を取り払い、異なるベンダー製品でも共通の方法でアプリケーションを届け、データの連携ができ、機能拡張やアップデート、一元監視ができる世界を実現します。
margoがもう一つ興味深い点は、ゼロから独自技術を作るのではなく、“オープンソース・カルチャー”の考え方に基づき、“車輪の再発明はしない”と明言している点です。
そのため、margoの仕様を読むと、コンテナやKubernetesなど、ITで広く採用されるデファクトスタンダードな技術を採用していることが分かります。
2025年12月現在で策定されている仕様は、主にソフトウェアの管理プラットフォームが対象です。
・アプリケーションのパッケージング方法
・産業用PCなどの汎用ハードウェアベースのエッジデバイスへのデプロイAPI
・ソフトウェアの監視・可観測性の仕様
・エッジデバイスに必要な機能要件
こうしたプラットフォームのレイヤーは、“非競争領域”として多くの産業で標準化の対象となってきました。
非競争領域の共通部分を標準化することで、各社は“競争領域”にリソースを集中させることができ、業界全体のイノベーションの加速に寄与します。
皆さんが、例えば生産ラインをIoTに対応するために、生産設備からのデータ取得を進める場合、どのような方法で対応されますか?
従来、生産ラインへ新たな機能を追加するには“機能=専用のハードウェア”を導入し、既存のハードウェアと連携させる、という方法が多かったのではないかと思います。
例えば、生産ラインとITシステムを連携するためにOPC-UAに対応したいという場合、導入しているPLCの標準機能として提供されていない機能を追加する“機能拡張ユニット”を購入し、既存のPLCへ新規のハードウェアとして追加するというイメージです。
margoは、こうしたハードウェア中心のアプローチを、ソフトウェア中心のアプローチへ変革するためのプラットフォームの標準化と言えます。
ここで、margoの策定しているアーキテクチャーを見てみましょう。margoのアーキテクチャーは、大きく三つの層に整理されています。
レジストリ&リポジトリ
アプリケーション・パッケージやアプリケーションの設定をGitリポジトリやHelmリポジトリで一元管理
管理サービス
アプリケーションの配信・更新、エッジデバイスの監視を統一のAPIで実行
エッジデバイス
パッケージされたアプリケーションを実行する共通ランタイムや、管理サービスと連携するクライアントサービスを搭載
(採用される技術はコンテナやKubernetes、OpenTelemetryなどのグローバルでデファクトスタンダードなクラウド技術)
このアーキテクチャーの実現する姿は、スマートフォンのOS+アプリストアの産業版とも捉えられます。
図5は、margoが策定する仕様により実現されるエッジデバイスへのアプリケーション展開の方法を表しています。
例えば、皆さんが生産ラインへ新たな機能を追加したい場合、まず、共通のカタログ上(マーケットプレイス)に公開されたアプリケーションの中から、利用したいアプリケーションのライセンスを購入します。
次に、管理サービスのGUIを通じてボタンを数回クリックするなどの簡単な操作で、多様なメーカーのアプリケーションをエッジデバイスへ展開することが可能です。
このようなソフトウェアの導入が容易となるプラットフォームの存在によって、産業エッジは次のステージに進みます。まさに、産業エッジの“ソフトウェア定義化”が始まろうとしているのです。
・ハードウェアに縛られず、ソフトウェアが主役になる世界
・AIやIoT、さらにはPLCなどのOTワークロードもソフトウェア化し、共通プラットフォーム上で提供
・新機能をハードウェア更新なしに迅速に投入可能
・マルチベンダー環境の相互運用性が保証される
Red Hatは、Linux OSを中心とした様々なオープンソースを製品として提供するソフトウェア企業です。
Red Hatは、margoの策定した仕様に対し、以下の三つの価値を提供します。
・リアルタイム対応を含む高信頼なLinux技術
・オフラインでも動くプラットフォーム
・主要OT企業との協業実績に裏付けられた信頼性
・IoT、AI/ML、PLC制御、HMI/SCADA、MESなど、異種ワークロードを共通プラットフォームへ統合
・オープンソースを軸に、クラウドからエッジまで一貫した運用を実現
・第三者機関からのリーダー評価
◦GigaOm Rader:https://www.redhat.com/en/resources/kubernetes-for-edge-computing-analyst-material
・製品としての長期サポートの提供
・早期のセキュリティパッチの提供
・IEC 62443などの産業規格への準拠
margoの思想はRed Hatのオープンソース戦略と非常に相性が良く、ITとOTの融合を加速するためのプラットフォームを実現します。Red Hatでは、margoがもたらす“ソフトウェア中心の生産ラインの機能拡張”をいち早く体験していただくために、YouTubeでデモ動画https://youtu.be/RGDYiP0qdzI?si=9v3ZdgJsvsiORUeiを公開しています。
動画では、Red Hatのアプリケーション・プラットフォーム製品であるRed Hat OpenShiftとRed Hat Device Edgeを用いて、OpenShift上の“ソフトウェアカタログ”(図6左・中央上部のGUI画面)から、生産ラインに導入したいアプリケーションを選択すると、エッジデバイス(図6左・中央下部のCLI画面)へ自動的にアプリケーションが展開され、簡単に生産ラインの機能を拡張できる様子を紹介しています。
さらに、展開したアプリケーション機能とPLCを連携させることで、生産ラインに“計画生産”を自動化する能力を付与できた様子もデモしています(図6右)。
また、12月3日に東京・大崎で開催されたRed Hat主催イベント“Manufacturing Day”でも、こうしたソフトウェアによるものづくりの変革を実際に体験していただきました。当イベントには、オープン・プラットフォームやオープンソース・カルチャーの重要性に共感するユーザー企業や、産業オートメーション製品を提供する各メーカーが一堂に会し、各社の取り組み、margoが描く製造業の未来像、そして産業界が直面する課題について、活発な議論が行われました。グローバル・国内双方の最新動向を把握できるだけでなく、ネットワーキング・セッションを通じて参加者同士が交流できる貴重な場となりました。
Red Hat Manufacturing Day│ソフトウェア・ディファインド時代の製造業DX - 非競争領域での協調が生む新たな競争力 -
margoは、閉じた独自仕様が支配してきた産業エッジを、オープンで協調的なエコシステムへと転換する大きな節目です。これは単なる標準化活動ではありません。
産業界全体が“互換性”と“拡張性”を前提に進化するための、新しい成長への第一歩になると思います。
また、日本の製造業にとってmargoは、世界最先端と肩を並べるための強力な武器になるでしょう。
オープンソースによる共創を長年体験してきたRed Hatとしても、非競争領域での協調こそが持続的な競争力の源泉になると確信しています。
ぜひ、margoがもたらすオープン・イノベーションの波に注目してください。