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プリント基板 編集企画 2025.09.01

基板の温度分布解析

株式会社構造計画研究所 SBDプロダクツサービス部 小宮山由果

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放熱設計の難易度が上がっている2つの要因

昨今、電子機器の放熱設計の重要性が増しています。電子機器の”熱”は昔からあったはずですが、なぜここまで設計者を悩ます問題になっているのでしょうか。
主な要因は大きく2つあります。1つ目はECUの小型化、2つ目は制御の高速化です。これらが重なり、電子機器に実装されている半導体の発熱量および発熱密度(単位面積あたりの消費エネルギー量)増加への対応が、設計者に求められるようになっています。
ECUの小型化と制御の高速化が必要になった背景には、CASE(ケース)による自動車の機能増加があります。CASEとは、自動車業界の未来像として掲げられる「Connected(つながる)」、「Autunomous(自動運転)」、「Shared&Service(シェア&サービス)」、「Electric(電動化)」の頭文字をとったキーワードです。CASEの実現のためには、1台の車により多くのECUを搭載し、それら1つ1つにより複雑な制御が必要となります。さらにそれぞれのECUには今まで以上に多くのセンサやCPU・GPUを実装する必要があります。
今後、CASEの実現を進めていくには、ECUの搭載数をさらに増やす必要があると考えられます。従来の設計方法ではECUの設置場所が足りないため、ゾーンECU・モビリティコンピュータのように複数のECUを統合する必要もでてきます。つまり、局所的に部品が密集して実装されていくことになります。これは、電子機器の発熱密度がさらに高くなり、設計者が部品の温度保証を満足させるのにさらに苦労することを意味します。

 

基板の正確な温度を予測するためには?

多層基板に実装される電子部品の発熱量は、9割が基板の配線パターンを経由して逃げると言われています。そのため、発熱体の正確な温度予測には、配線パターンを考慮した熱流体解析が欠かせません。
3次元CADアドイン熱流体解析ソフトウェアSimcenter FLOEFD(シムセンターフローイーエフディー、以下FLOEFD)は、電気CADのデータから電子部品ごとの形状と材料情報、層ごとの配線パターン等の情報をインポートし、熱解析に使用することが可能です。今回は配線パターンを考慮した基板の温度分布を解析した事例をご紹介いたします。

 

基板のモデリングレベル

基板のモデリングレベルは以下の3種類から選択することが可能です。

 

■ コンパクトモデル

基板全体を単一の部品で表現するモデルです。
異方性の熱伝導率の材料が割り当てられます。

 

■ 詳細モデル

基板の層ごとに別のソリッドで表現するモデルです。
層ごとに等価な熱伝導率の材料が割り当てられます。
配線パターンを3次元でモデル化することもできます。

 

■ 材料マップ

「Smart PCB」としてFLOEFDへ転送されます。
基板の層ごとに別のソリッドで表現するモデルです。
基板を面分割した等価な熱伝導率でモデル化できます。

※Smart PCB(スマートピーシービー)とは?
基板を面分割し等価な熱伝導率と熱容量でモデル化する手法。精度を維持しながら、計算時間を1/3以下に削減できる。

詳細モデルでは、基板の配線パターンを3次元モデル化し、解析を実施することも可能です。しかし配線パターンの3次元モデル化は計算メッシュ数が膨大になり、実用が困難です。そこで、モデリングレベルとして材料マップを選択し、Smart PCB機能を使用します。この機能を使用することで、配線パターンを考慮した解析を、計算負荷を低減しつつ高精度に実施することが可能になります。今回の解析事例ではSmart PCBで基板のモデル化を行います。

 

温度分布解析の条件設定

● モデル形状

図1にモデルの外観を示します。基板や素子を見やすくするために、ケースは半透明として表示しています。筐体内のグレーの基板部分に電気CADから読み込んだ図2の基板をアセンブリします。

 

図1:モデルの外観

 

図2:インポートする基板データ
図2:インポートする基板データ

● 熱源の設定

熱源の設定では、種々の素子に、図3で示す発熱量を設定しました。

図3:熱源の設定

 

● Smart PCBの設定

Smart PCBの面分割の詳細度は以下の図4の通りです。基板の長辺方向を300分割する詳細度で計算を実施しています。面分割した各要素には銅線の含有率から計算された等価な熱伝導率が割り当てられます。

 

図4:面分割 詳細度

 

● その他解析条件

流体

 

空気

解析タイプ

 

外部流れ、定常解析

考慮する物理特性

 

固体の熱伝導、自然対流、ふく射(放射率:0.8)

セル数

熱流体

150,000 セル

 

Smart PCB

650,000 ノード

 

温度分布解析の結果

図5に、基板表面の固体温度コンターを示します。

図5:基板表面 固体温度のコンター

Smart PCBでは基板の各層の温度分布を表示することが可能です。

 

図6:plane_4層, dielectric_5層の温度分布

 

図7:各コンポーネント 固体温度

● コンパクトモデルとの比較

コンパクトモデルは基板全体を単一の部品で表現するモデルです。異方性の熱伝導率を持った一つの固体材料を割り当てます。同一のモデルを使用し、基板のモデリングレベルのみを変更し、コンパクトモデルとSmart PCBの結果を比較しました。

図8:コンパクトモデル 温度分布 図9:Smart PCB 温度分布

 

素子温度(環境温度:20℃)

 

 

コンパクト(℃)

Smart PCB(℃)

U2

43.8

48.5

U5

54.2

56.7

U14

44.3

47.2

Y1

45.3

49.1

 

コンパクトモデルとSmart PCBモデルでは素子温度、及び基板の温度分布において異なる結果が得られることが分かりました。とりわけ素子U2の温度とその周辺の温度分布に顕著な差が出ることが確認できました。配線パターンを考慮しているSmart PCBではより現実に近い温度分布が得られていると考えられます。

 

● 詳細モデルとの比較

同様のモデル(簡単にするため素子は1つのみ)を使用し、詳細モデル、Smart PCB、コンパクトモデルで計算を行い、比較した結果を示します。

 

 

 

詳細

Smart PCB

コンパクト

セル数

10,628,080

10,464

184,768

Smart PCB分割数

 

400

 

Smart PCB 計算点数

 

3,056,893

  

計算時間(min)

93

8

1.5

チップ 最大温度(℃)

336

334

314

 

Smart PCBでは1/10の計算時間で詳細モデル使用時と同等の温度分布、チップ温度を得ることができました。

 

まとめ

今回は3次元CADアドイン熱流体解析ソフトウェアSimcenter FLOEFDを使用した、配線パターンを考慮した基板の温度分布解析の事例をご紹介いたしました。基板を含む電子機器の解析では、コンパクトモデル(単一のブロック)で解析を実施するケースが多いですが、より正確な素子温度の把握には配線パターンの考慮が欠かせません。詳細なモデル化ではセル数、計算時間が膨大になることがありますが、本事例のようにSmart PCB機能を使うと、計算負荷を低減しつつ、詳細モデルに近い素子温度と温度分布が得られることが分かりました。

 

参考文献

[1]篠田卓也,自動車エレクトロニクス「伝熱設計」の基礎知識 -小型高性能化する自動車用電子制御ユニット(ECU)の熱対策技術-,日刊工業新聞社,2021

株式会社構造計画研究所 SBDプロダクツサービス部 小宮山由果
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