2025年5月に「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律案」(GX推進法)の改正法1が成立しました2。これによって、10万トン以上の二酸化炭素を直接排出している事業者には、新たな義務が課されます。これら事業者は割り当てられた排出枠に収めることが求められ、万が一排出枠を超過してしまった場合は、排出枠を調達しなければなりません。これにより、二酸化炭素の排出削減は環境への配慮という枠を超え、企業経営の重要な要素となりました。
私たちニッペコはこの変化に応え、グリースメーカーとしての役割を果たすべく、バイオマスグリースの開発に取り組んでまいりました。本稿では、現在の脱炭素を取り巻く環境と、当社のバイオマスグリースについてご説明します。
改正GX推進法により、2026年度から二酸化炭素の直接排出量が一定規模以上(10万トン以上)の企業は、排出量取引制度に参加することが義務付けられ、さらに排出枠が割り当てられることになります。企業は割り当てられた排出枠内に収めるよう努め、余った排出枠を繰越または売却するか、排出量に応じて追加の排出枠を調達することが求められます。この排出枠の売却と調達が排出量取引であり、こうした二酸化炭素排出量にコストを課す政策をカーボンプライシングと呼びます。
例えば、ヨーロッパでは、2050年までに域内の温室効果ガス排出量をゼロにする目標を掲げており、それに向けた政策として、2026年に国境炭素調整措置(CBAM:Carbon Border Adjustment Mechanism)を導入することが決まっています。この制度によって、ヨーロッパと比較して二酸化炭素排出に対する規制が緩い地域で製造された製品が、欧州に輸入される際に調整措置が行われます。具体的には、二酸化炭素排出量を抑えるために投資している欧州企業が価格競争で不利にならないよう、輸入品に対して相応の額を上乗せする仕組みです。
こうした政策が各国で広まるにつれて、企業として二酸化炭素排出量の削減に取り組むことの重要性が増してきます。
そもそも、このような制度が目指すカーボンニュートラルとはどのようなものなのでしょうか。国際的に一般に使われている「ネット・ゼロ」という表現は、「実質ゼロ」を意味し、二酸化炭素排出量を差し引きでゼロにするという考え方です。簡単に言えば、大気中の二酸化炭素量(※1)を増加させないことを指します。この概念を小さく捉えると、特定の製品のライフサイクル全体(原料調達から廃棄まで)における二酸化炭素排出量を、他の場所で同量吸収することによって、カーボンニュートラルが達成されるということになります。二酸化炭素を直接吸収する技術(DAC:Direct Air Capture)も進化していますが、製品を製造する際に使用する原料をバイオマス(※2)由来の材料に置き換えることで、カーボンニュートラルに貢献することも可能です。
特に、植物は光合成を通じて、空気中の二酸化炭素を吸収し体内に有機物として炭素を固定しています。これによって、植物が廃棄されても、元々大気中に存在していた二酸化炭素が再び大気に戻るため、全体としての二酸化炭素の増加を引き起こしません(図1)。したがって、カーボンニュートラルを達成する上で、バイオマスの活用は非常に重要な意義を持っています。
※1 ここでは二酸化炭素のみを話題にしているが、メタンなど他の温室効果ガスも削減すべき項目に含まれている。
※2 バイオマスとは、「化石資源を除く、生物由来の資源」のことを言う。

図1.カーボンニュートラル
カーボンニュートラルを達成する上で大きな意義を持つバイオマス原料の活用は、企業活動上のPRにおいても有効的に活用することができます。(一社)日本有機資源協会バイオマスマーク事業事務局にて運営されているバイオマスマークは、製品内に含有している成分の内、何%以上がバイオマスに由来しているかを示すことができます。この認定を受けることで、バイオマス由来の原料を使用していることが一目でわかります。
このバイオマスマークは幅広い業界で活用されており、「バイオマスマーク認定商品」の数は2,000を超えるほどです。

図2バイオマスマーク:BIOLUB® GS / BIOLUB® GS-SP
当社ではそのような、バイオマス由来原料を使用したグリース「カーボンニュートラルグリース」の構想を持ち、ついにBIOLUBⓇ GSを開発しました。BIOLUBⓇ GSにはGreen & Sustainableの意を込めており、このグリースのコンセプトがGlobal Standardになるよう願っております。
このBIOLUBⓇ GSは、その90%以上をバイオマス由来の成分で構成しており、持続可能性が高く地球環境に配慮したグリースです。これについて上記で説明したバイオマスマーク(認定番号:220163)も取得しています(図2)。
グリースは、一般的にその大部分が基油と呼ばれる油であり、グリース中のバイオマス由来成分の含有量を高めるためには、基油にバイオマス由来のものを使用する必要があります。一方、バイオマス由来の基油として、最も広く知られる植物油は、樹脂部材へのケミカルアタックや低温性、酸化安定性など、今日のグリースに求められる種々のスペックを満たすのは難しいという課題がありました。これに対して、BIOLUBⓇ GSではそのような懸念点を克服し、従来のPAO(Poly-α-Olefin)グリース相当の低温性、酸化安定性、対樹脂性を実現しました。これによって、幅広い分野に適用できるものと考えております。
一方で、BIOLUBⓇ GSは極圧性がそれほど高くなく、大きな荷重がかかる環境には不向きでありました。そこで、高荷重が加わる用途を想定して、当社ノウハウを用いて高荷重用途に適合できるよう改良を加えました。これによって、BIOLUBⓇ GSで得られた二酸化炭素排出量の削減効果はそのままに、耐荷重性能を向上させたBIOLUBⓇ GS-SPも開発しました。BIOLUBⓇ GS-SPはBIOLUBⓇ GSと比較して、高速四球試験(融着荷重)の値が大きく向上しています。一方で、その他の性状は大きな変化がありません。また、バイオマスを使用している割合も変わらず、バイオマスマークの認定を受けています。

表1.BIOLUBⓇシリーズの性状
BIOLUBⓇ GS-SPについて、製造時に係る二酸化炭素排出量の試算を行いました。試算には、環境省の排出原単位データベースV3-5を使用し、原料の仕入れから、出荷・焼却処分までを考慮しました。当社でBIOLUBⓇ GS-SPを製造した場合と、同じく当社で従来品のグリースを製造した場合の二酸化炭素排出量を比較すると、従来品に比べ、約70%の二酸化炭素排出量削減となる結果が得られました。

図3.二酸化炭素排出量削減効果
(環境省;排出原単位データベースV3-5を使用し、当社ルールにて算出)
BIOLUBⓇ GS-SPは2025年7月に東京ビッグサイトにて開催されましたTECHNO-FRONTIER 2025にも出展いたしました。その中でもご紹介した通り、日本トムソン株式会社(本社:東京都港区、代表取締役社長:細野 幹人)よりバイオマスグリースBIOLUB® GS-SPを封入した直動案内機器を販売することが決定しております。同社にて直動案内機器を用いた作動耐久評価を実施したところ、他社バイオマスグリースに比べ、走行距離が長く、既存グリースと同等の結果が得られています(図4)。この通り、BIOLUBⓇ GS-SPはバイオマス原料を多く使用したうえで、十分な性能を有したグリースです。
この他、BIOLUBⓇ GS-SP はNSFにおける食品機械用グリースとしての認証も得ております。BIOLUBⓇ GS-SPは幅広い用途に適用ができるグリースであると言えます。

図4.NSFマーク

図5.直動案内機器での耐久試験結果
かねてより地球環境への配慮が求められてきましたが、これまでは努力義務にとどまっていました。この度、日本で改正GX推進法が成立し、二酸化炭素排出量削減への責任が明確に課せられることとなりました。この大きな変化の中で、ニッペコは環境に優しい未来を切り開き、持続可能な製品の開発に邁進してまいります。
参考文献
1 経済産業省, ニュースリリース:“「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律及び資源の有効な利用の促進に関する法律の一部を改正する法律案」が閣議決定されました”, https://www.meti.go.jp/press/2024/02/20250225001/20250225001.html, (参照2025-09-08)
2 参議院, 第217回国会(常会)議案情報, https://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/gian/217/meisai/m217080217028.htm, (参照2025-09-08)
3 バイオマスマーク事業事務局, “バイオマスマーク認定商品”, (一社)日本有機資源協会, https://www.jora.jp/biomass_list/ (参照2025-09-08)
4 日本トムソン株式会社, “ニュースリリース;バイオマスグリース封入直動案内機器の販売を開始”, https://www.ikont.co.jp/product/pdf/TSA0-25010.pdf, (参照2025-09-08)
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