1. はじめに
JAXAの正式名称は、「国立研究開発法人 宇宙航空研究開発機構」であって、宇宙に関する研究だけでなく航空についての研究も活発に行われている。
今回は、調布にある調布航空宇宙センターを訪問し、航空技術部門 航空プログラムディレクター吉田憲司様に同部門の研究内容を紹介していただいた。
航空機に関する多くの研究が行われており、今月はエンジン系統の話題を中心に報告し、来月はそれ以外の、航空の安全、環境対策、次世代の航空機など、興味ある話題を取り上げ、2回にわたって紹介する。
2. ジェットエンジンの改革
航空機のエンジンは、地球温暖化の対策、環境基準の強化などのため、燃費が良くて、CO2(二酸化炭素)やNOx(窒素酸化物)などの排出量の削減が求められている。
今後20年間で航空輸送量が約2倍に増加すると予測される中、次世代エンジン技術の開発によって、環境に対する社会的ニーズに対応するとともに、我が国の航空エンジン産業の国際競争力を強化するための研究が行われている。
1. ターボファンエンジンの構造
現在の大型ジェット旅客機は、ほとんどすべてターボファンエンジンを搭載している。
そこで、ごぞんじかもしれないが、まずターボファンエンジンの構造と動作を図1で簡単に説明しよう。
ターボファンが発明される以前は、歴史的にはターボエンジンであった。
同図のコンプレッサで空気が30倍ほど圧縮されると、ボイル・シャルルの法則(※註)により約500℃まで高温になる。

燃焼室で燃料ノズルから出た液体燃料(ケロシン)は、蒸発後に高温の火炎と混ざって燃焼し、排気ガスとなって後方へ噴出される。
この時、タービンも回転させコンプレッサーのブレードを回転させる。
排気ガスは200m後方でも20m/sec程度の風速で、大気を切り裂く騒音となる。
そこで、図1のように前方にファンをつけたのがターボファンエンジンである。

図1 ターボファンエンジンの構造と空気の流れ
このファンによってエンジンの推力が上昇するとともに、騒音も減少することになった。
現在実用化されているターボファンエンジンではファンからの推力が大きく、タービンからの排出ガスの数倍以上の推力である。
2. ターボファンエンジンの改革
2016年時点で、日本の航空機エンジン関連メーカーの世界シェアは6.6%弱である。
図2に示すファンや低圧タービンなどが主な担当となっている。

図2 ターボファンエンジンとコアエンジン(図はJAXA提供)
今後、シェアを伸ばすには、既存の分担分の技術を高度化して競争力を強化するとともに、高度な技術を要するエンジン・コア部に関する技術開発を手掛ける必要がある。
このため、JAXAでは高負荷圧縮機、リーンバーン燃焼器、高温高効率タービンを開発し、燃費消費量や窒素酸化物排出の低減の研究を行っている。
(1) さらなる高バイパス比化のための軽量化
ターボファンエンジンは、CO2排出削減やエンジンの騒音低減のため、高バイパス比化、すなわちエンジンのジェット部分の空気流入量よりファン部分の空気流入量を大きくする技術がいっそう進むことが予想される。
図3は、これまでのバイパス比向上の経過と、現在のJAXAの目標である。

図3 これまでのバイパス比とJAXAの目標
(図はJAXA提供による資料に筆者が若干、手を加えた)
高バイパス比化に伴ってファンとそれを回転させる低圧タービンが大型化されて重量増になり、かえって燃費増になる可能性があるので、軽量化技術を導入することが求められる。
JAXAでは、①ファン空力効率1ポイント以上の向上と、②ファン+低圧タービンの10%軽量化を可能とし、耐久性や信頼性で従来と同等となる高効率軽量ファン技術と軽量低圧タービン技術を開発し、実証試験によりその有効性を確認している。
(2) ファンの軽量化
JAXAの技術実証プロジェクトでは、ファンの軽量化のため炭素繊維強化プラスチックCFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastic)を用いた中空構造のファンブレードの開発が行われた(図4)。

図4 ファンブレードを中空構造で軽量化(図はJAXA提供)
ファンブレードは離陸時の鳥衝突による破損がもっとも危険となるため、鳥に相当するゼラチン塊による高速衝撃試験を行って、そのブレードが十分耐えることが確認された。
(3) 高圧圧縮機および高圧タービンの高負荷化
高圧圧縮機は、多段の軸流圧縮機に加え、最終段に斜流圧縮機を適用することで、圧力比20以上を目指している。
高圧タービンは図5のような構造で、固定翼(図の静翼)と回転翼(図の動翼)からなり、高圧圧縮機の回転させる駆動力を発生する。

図5 タービンの構造(図はJAXA提供)
航空エンジンでもっとも過酷環境である超高温(1600℃)に曝される高圧タービンへの適用を目標に、長時間高温耐酸化性能を有する耐熱複合材料を検討している。
その材料として、高耐酸化耐熱性のセラミックス基複合材料を適用した冷却設計技術の開発を進めている。
特に長期にわたり高温過酷環境下で使用される高温大気中疲労寿命の向上に主眼を置いている。
シンプルな冷却構造の適用により複雑な冷却機構を必要としなくなるようなタービン翼の開発を目指してしている。
(4) タービン材料の変革
航空機エンジンの更なる軽量化と高推力化のため、燃焼ガスで駆動する高圧タービンの構成材料を、現在のNi基耐熱合金(密度8g/cm3程度)からSiC繊維/SiC複合材料などのセラミックス基複合材料CMC(Ceramic Matrix Composites、密度2〜3g/cm3))に置き換えることを目指した研究開発を行っている。
CMC製タービンの実用化にあたっては、さらなる高強度化、耐酸化性の向上、低コスト化、超高温での変形挙動のモデル化など、解決しなければならない課題が数多く残されている。
JAXAでは、CMCの超高温での耐久性や変形挙動を予測するための解析モデルを構築するとともに、必要となる超高温材料試験装置の開発や試験方法の標準化(JIS規格化及びISO規格化)を進めている。
図6は、その試験装置である。

図6 SiC/SiCの超高温引張試験で使用する加熱炉付材料試験機(図はJAXA提供)
(5) リーンバーン燃焼でNOx対策
ジェット燃料(ケロシン)を燃焼する時の燃料対空気の比が約1:15ならちょうど完全燃焼になるが、それより空気を多くした燃焼(希薄燃焼)をリーンバーン(Lean burn)とよんでいる。
従来のエンジンではリーチリーン燃焼器が使われていて、高濃度の燃料ガスを燃焼させた後に急速に冷却空気と混ぜるが、その境界でNOxが多量に発生する。
リーンバーン燃焼器では燃料ガスと空気を混ぜた後に燃焼するので、燃料リッチな部分がなくて高温にならず、NOxの発生が抑えられる。
図7はリッチリーン燃焼器とリーンバーン燃焼器を比較した概念図である。

図7 リッチリーン燃焼器とリーンバーン燃焼器の概略図(図はJAXA提供)
燃料と空気の比率と火炎温度の関係は図8のようになっており、空気の比率を大きくするほど火炎温度が低くなり、NOxの発生が少ないので、リーンバーンではNOx発生が従来以上に抑えられる。

図8 燃料と空気の混合比と火炎温度、NOx発生量の関係(図はJAXA提供)
JAXAではすでに産業界と連携してリーンバーンを可能とする燃焼器の研究開発が進められており、研究室レベルでは多くのデータが蓄積されている。
今後は実用化を目指したJAXAの技術実証プロジェクトを通して産業界の実力が向上することが期待される。
3. 航空機の電動化
自動車が電気で走るようになり、数十年後にはガソリンエンジンはなくなり、すべての自動車が電動化される可能性があるといわれているが、航空機でも電動化が真剣に検討されている。
電動化の目的は、騒音の低減もあるが、やはり図9のようにエネルギー消費量の削減である。現在、大型の航空機では重量400トン、その内で燃料が150トンともいわれ、東京からニューヨークへ飛ぶと150トンのケロシンが消費されてしまう。

図9 航空機の電動化によりエネルギー消費量が激減する(図はJAXA提供)
これが電動化され、その電気は太陽光や風力など自然エネルギーから供給されると、燃費が節約できるだけでなく、世界の石油消費が減り、CO2排出が削減される。
電動化の構造としては、図10左のように、電池の電力でモータを回し、ファンを回して風力を得るものである。
電池は能力の高いリチウムイオン電池を用いたとしても大型機を長距離飛ばすのは無理で、小型機用となるだろう。
いっぽう、図10右のように、水素を供給して燃料電池の電力を利用すると、水素の量を増やすことにより、飛行距離を伸ばすことができる。また、水素以外に環境に優しいバイオ燃料を用いる案もある。

図10 電動化の構造と、電池だけでは長距離への対応が困難なので、
水素エネルギーを用いた燃料電池などが併用される(図はJAXA提供)
本格的な大型機も図11に示すような構想があって、図のように後方にファンを並べた構造が考えており、この方が空気の流れが効率的になるそうである。

図11 「高効率発電機を電力源としたハイブリット推進システムのイメージ図」
(図はJAXA提供)
現在のジェットエンジンでこの構造を実現しようとすれば、整備費増に繋がるなどのデメリットが出てくるが、電動モータを使うことによりデメリットを解消することが可能となる。
3. まとめ
今月はJAXA航空機関連の内のエンジンに関係した話題を紹介した。
来月はこの続きで、航空に関連した諸問題の他、超音速機の検討や垂直離着陸機などの話題を紹介する予定である。
乞うご期待。