1. はじめに
電子機器の発展は目覚ましく、年々高機能化しており、それに伴い、電子部品・デバイスの小型化、高密度化が急速に進んでいる(図1)。

「0402」形状のSMD実装も一般的に普及、電極間はより狭く、基板とパッケージ部品間の高さ(スタンドオフ)は50μmを切ることも多く見かけられるようになった。本誌2016年12月号で寄稿させていただいたように「製品形状の複雑化」による影響と、2017年12月号で寄稿させていただいたような「無洗浄タイプのソルダペーストを洗浄」する需要が増加傾向にあることで、電子部品の洗浄難度はさらに高まっている。
高機能化製品の信頼性確保のためには、洗浄は必須となってきているが、従来の概念に基づいた認識や、単に表面上の洗浄液単価で判断してしまう風潮があり、長期的な意味で、その仕様にあった洗浄プロセスを、選択することができにくい状況となってしまっている。
今号では、実際に洗浄プロセスを構築しようとした場合、どのような点が問題となっているのか、歴史的な背景も踏まえて論じさせていただきたい。
2. 「洗浄」への認識 日本は特殊な環境
1990年代までは、Sn-Pb共晶はんだが広く使用されてきたが、Pbを使用していることから環境問題が取り沙汰される事態となり、欧州を先駆けに法整備され取り扱いが制限されることとなった。その背景で「Pbフリーはんだ」は開発されてきた。ここから洗浄に関して、大きく諸外国と日本では異なる歩みを進めることとなる。
相違点の1点目として、日本国内における無洗浄ペーストの台頭である。Pbフリーはんだ開発以降、欧州をはじめとする諸外国は用途に応じてはんだ種を選択し、必要に応じて洗浄をすることが一般的に行われてきた。現在でも洗浄・無洗浄の割合はほぼ等倍と言われている。いっぽうで、日本は多くのメーカーが高信頼性無洗浄タイプのソルダペーストへの切り替えを実現し、コストの低減化も合わせて実現しており、無洗浄化の割合は9割ともいわれている。このことから、日本では洗浄をするのではなく、いかにして洗浄を失くすかを検討してきた背景があり、現在に至っている。
2点目としては洗浄剤の選択幅が挙げられる。日本では有機溶剤による洗浄が比較的安易に行える環境があり、安価で購入もしやすいIPAなどのアルコール類をはじめ、不燃性で乾燥性に優れるハロゲン系溶剤、引火性はあるものの強力な脂溶性を有する炭化水素類など、潤沢に使用できる。危険性が伴う場合でも洗浄装置の完成度・技術力が高いこと、作業員の習熟度も他国と比較し、軒並み高い水準であることが、安全運用できる要因となっている。今現在も日本における基軸は「溶剤洗浄」である。
いっぽう、欧州では、有機溶剤だけでなく化学物質全般に対する規制が今なお強化されつつあり、洗浄に有機溶剤をいかに使用せず、環境負荷・人員の健康リスクをいかに低減させるのか検証している国家・企業が大半である。また中国、韓国、タイといったアジア各国も独自の法令を施工し、環境規制を非常に強めている現状がある。
この2点から考えなければならないことは、日本は洗浄をせず製品化していく技術力では間違いなく世界トップクラスであるが、洗浄技術の選択幅や経験といった観点で状況が異なる。欧州では、使用できる洗浄剤に制限がある中で、洗浄剤だけではなくプロセス全体で洗浄課題を解決してきた背景があり、洗浄に対する認識とプロセス構築が洗練されている。その技術はアジア各国の生産拠点にも普及してきている。これに対して、日本企業が作り上げた生産条件は海外工場では適用できなく、生産活動に弊害が発生している。一例として、日本で使用可能な洗浄液を自社の海外工場では使用できないといった事象も報告されており、大きな問題となりつつある。このような状況を意図して作りあげた訳ではないが、洗浄技術やその動向に関して、日本は世界の動向を視野に入れながら再検討する必要があるといっても過言ではないと思える(図2)。

3. 難溶性物質の台頭
では、実際に洗浄需要が増加傾向となってきている日本が、具体的にどのような問題を抱えつつあるのか、説明していく。

まず、洗浄時の洗浄対象物に関しては、ソルダリング前後で図3のように変化し、ソルダリング後は「フラックス」「チキソ剤」「活性剤」が主体となった混合物に変化することとなる。そして熱変化が加わることで「金属塩」が発生する。有機溶剤を主体とした洗浄で長らく日本は洗浄を行ってきたが、近年は状況が変化してきている。環境規制の観点だけではなく、前号で既報となっているが、ソルダペーストには性能向上の為、様々な物質が添加されるようになり、ソルダリング後には、「チキソ剤用途の新規有機化合物」「レアメタル金属による新規金属塩」の影響により、洗浄は難しさを増しているのである。この点に関してより詳細に論述するために、ソルダペーストに使用されている主な物質名を以下に記載する(図4)。

1. チキソ剤の「難溶化」と「軟化点」変化
一例としてチキソ剤に使用されていることが多くなっている、アミド化合物に関して注目したい。使用頻度が高まっている背景には「リフロー温度の高温化」が理由として挙げられる。実際にアミド化合物は優れた熱特性が得られると共に、比較的安定性が高いことからソルダペーストの印刷安定性や経時安定性に大きく寄与している。しかし、添加されているアミド化合物の分子量が増加するに従い、水・有機溶剤に対し難溶性となる傾向にあり、また軟化点も高くなる(図5)。

チキソ剤は熱変性して硬化したフラックス成分他、多数の含有物質と混合状態となっている。従ってチキソ剤を軟化させることができない温度域では、残渣そのものが硬化状態となるため、洗浄には不利な状況となる。必然的に加温することで残渣は軟化する傾向となるが、従来の有機溶剤を主体とした洗浄液では、軟化点である高温域(60℃以上)まで加温することは、安全面や設備上の観点から容易ではなく、また、チキソ剤成分に対して溶解性に限界があることからも、洗浄効果は限定的となってしまう。
特に無洗浄タイプのソルダペーストの場合、洗浄はより難化してしまう傾向となる。近年の無洗浄タイプのソルダペーストは、残渣表面をより硬質化させている。これは残渣内部を完全に封止することで、水や空気の接触を断ち残渣を安定性化させる為である。いっぽうで、完全な硬化状態では物理的衝撃や経時変化により、残渣にクラックが発生してしまうため、それらを防止する観点から残渣内部は適度な弾性を維持できる仕様となっている。

実際に残渣は図6のような状態となっており、表面は難溶性層で硬質化し、なおかつ内部はチキソ剤を主体とした混合体で構成されているため、「溶解洗浄での洗浄」は著しく限定されてしまうこととなる(図7)。

2. 金属塩の溶解性
ごぞんじの方も多いであろうが、「塩」とは何かを改めて記載させていただく。正電荷をもつ陽イオン(カチオン)と負電荷をもつ陰イオン(アニオン)の間の静電引力による化学結合により形成されている物質の総称である。食塩の主成分である塩化ナトリウム(NaCl)はもっとも身近な「塩」といえる。エレクトロニクス分野では、Pbフリー化が果たされて以来、Sn塩が長年の課題となってきた(図8)。

近年ではより合金組成は変化し、金属塩形成はより複雑化しており、洗浄の難度をより高める要因となっている。
金属塩洗浄で重要なのは、「極性」を考慮しなくてはいけない点である。物質の溶解性は様々な要素で決まるが、その中でも大きなファクタが極性である。極性は分子内に存在する電気的な偏りのことで、分子構造や官能基の電気的特性によって決定される。極性の性質が類似するものは相溶性が高い(溶けやすい)といえるが、金属塩はイオン結合で形成されているため、電気的な偏りは大きく、極性を有している。水は分子構造から極性を有しているので、多くの塩を溶解させる性質があるが、一般的な洗浄剤成分として使用されている、有機溶剤の多くは無極性であることが多く、その多くは金属塩の溶解性が限定されてしまう。仮に極性のある有機溶剤を使用した場合、一定の洗浄効果は期待できるが、有機成分の溶解性も著しく強い為、製品素材そのものへのダメージが懸念され、安全面・作業面の観点から危険性が高く、「洗浄剤」として使用しにくいのが実情である(図9)。

また、金属塩は水ですべてが解決できるわけではない。水にも溶けない金属塩が存在するのである。これはルイス酸の定義とHSAB則による考え方が従来は必要であるが、簡易的に説明していく。
イオン結合で形成されている金属塩も静電気引力の差があり、その強さは図10のように定義される。

静電気引力が低いものは共有結合性に類似する性質があるため、極性が強い水への溶解性は制限されることとなる。
具体例を挙げると、静電気引力が弱い組み合わせであるAg+とCl−から形成されるAgCl(塩化銀)は、水へは難溶性を示す。酸・アルカリであれば塩化銀のような水へ不溶の塩であっても溶解性は好転することが多いが、市場ニーズとしては水系であっても安全性の高いもの、具体的には「中性領域」の洗浄液を求める声も高まりつつあり、その選択肢は狭まりつつある。
3. 添加剤(活性剤)の変化
RoHS指令やダイオキシン対策を皮切りに、活性剤が急激に「脱ハロゲン」化へと進んだ背景がある。法令規制に対応しなくてはならない為、それまでの主流であったハロゲン系は成りを潜める結果となった。そこで代替主流となっているのは有機酸・有機アミンである。ハロゲンには劣るものの優れた補助効果が得られる。しかし、ハロゲン系と同様に、有機物活性剤は「イオン残渣」という観点を考慮しなくてはならない。無洗浄タイプのソルダペーストは加熱後に失活、もしくはA項で論じたように密閉化されることで、残渣内に残留している添加剤は安定化状態となる。しかし、洗浄という行為は見方を変えると、「安定化」している残渣を「不安定化」させることに他ならないので、不完全な洗浄ではかえって残渣中の様々な成分を「不安定化」させることとなってしまう。よって洗浄時に残渣は完全に除去する必要性がある。上項で論じたように残渣は複合化しており、適切な洗浄が求められる。イオンマイグレーションは過去の事象とされることも多いが、活性剤の組成・添加量の変化、搭載部品の微細化による電極の狭ピッチ化により、新たな課題として復活してきている(図11)。

以上の理由から、高性能化しているソルダペーストの洗浄は、フラックス成分であるロジン・レジンを単純に除去するだけでなく、混合物となって含有される「難溶性物質」チキソ剤・金属塩・添加剤への対応を考慮しつつ、洗浄検討しなくてはならないことが御理解いただけるかと思う。従来型の洗浄では上述の通り難溶性物質への完全対応は難しく、特に無洗浄タイプのソルダペーストは、「有機溶剤による溶解洗浄」といった方法では、近年開発されているソルダペーストの洗浄はやすしくなるどころか困難な傾向にある。「難溶性物質」への適切な対応を考えなくては、洗浄は成り立たないのである。
4. 難溶性物質への対応力(MPC洗浄剤)
難溶性物質への対応力が近年のフラックス洗浄のカギとなっている状況において、当社はそのソリューションをもち合わせている。当社洗浄剤の1つMPC洗浄剤は印加物理力(撹拌・加温など)による活性化(マイクロフェーズ化)状態となった後、剥離洗浄を主体とした剥離+溶解のダブル方式の洗浄を行なえるため、強力な洗浄性が確保できる(図12)。

特性から水溶性・脂溶性成分のみならず、「難溶性物質」に対して有効にアプローチできる。またMPC洗浄剤は洗浄性だけでなく、以下のようなメリットもあり、製品は多機能な仕様となっている。
1. 成分の主体は水
洗浄に使用する際の洗浄液の成分比はおおむね8割以上は水で形成されており、搭載部材を痛める可能性は低いので、部材適合性が非常に高いと言える。有機成分が低含有であり、環境的にも優れた洗浄剤である。
2. 再利用可能
溶解洗浄が主体ではないため、洗浄液中に分散したコンタミはフィルタリングすることで、洗浄剤の再利用が可能であり、ランニングコスト面でも非常にメリットが大きい洗浄剤である(図13)。

洗浄対象物にMPC洗浄剤を照らし合わせると図14のようにまとまり、洗浄剤の性質が各ペースト成分に有効にアタックできることがおわかりいただけると思う。

難溶性物質洗浄の対応として、金属塩除去、無洗浄ペーストの洗浄事例を図15、図16に示す。


これらは汎用有機溶剤では洗浄が難しい事例の1つである。また難溶性物質への対応は洗浄方法も非常に重要であり、スプレー・超音波・噴流といった各洗浄方式を適切に用いることで、はんだペーストの仕様、製品形状に合わせた適切な手法を用いることがMPC洗浄剤では可能である。
5. ソルダリングと洗浄の今後
一昔前では考えられなかったIoT技術や自動運転技術などは、高信頼性が要求されており、特に車両関係のデバイスには、熱サイクル耐性・安定的な対候性が必須となってきている。ソルダペーストの開発もそれに伴い、より性能の高い製品が市場からは要求されているが、日本は高い技術力で乗り越え、なおかつ高性能な「無洗浄ペーストの活用」でそれらを成し遂げてきた。反面、センサ部品やカメラモジュールなど、完全な「ゼロ残渣」を求める製品に「洗浄」は必須となっており、多くの無洗浄ソルダペーストは、洗浄の壁をより高くしてしまった。
どのような分野にもいえることではあるが、性能を高めるということは、従来とは異なった物質を使用したり、作成方法の相違が生じ、何かを向上させると、他の性能が低下してしまうことはよく見受けられる。はんだにおいても、特性向上と引き換えに、原則洗浄性は悪くなってしまう傾向にあり、はんだ特性と洗浄性はトレードオフな関係にあるといえる。はんだ特性の進化と共に、洗浄に対する認識、洗浄技術も変革していくことが、必要ではないかと考える。洗浄だけに限らず、国際競争が激しさを増す中で、日本ならではの技術を有しつつも、新しい技術を柔軟に享受し極めることが、加工貿易国「日本」の各分野に求められているのである。
我々は洗浄液メーカーとして、これらの課題に応えられるよう取り組みを怠ることなく、金属塩や無洗浄ペーストをはじめとする高難度洗浄の研究を引き続き行っていきたい。難解な洗浄でこそ、我々洗浄液メーカーの力量は試されることとなり、業界全体の洗浄技術発展に寄与できるものと考える。
当社は様々な業界の方々に協力していただいているが、その一環の技術発表として、2019年1月に開催されるインターネプコンジャパンにおいて、金属塩の洗浄に関する技術報告、清浄度分析手法、スプレー洗浄機の展示をメイン事項として展示させていただく予定である。引き続き、洗浄技術の開拓に取り組ませていただくためにも、当日は多くの皆様方のお声を頂戴させていただき、「洗浄」を考える足掛かりとしていただけくことができれば幸いである。