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2019.02.01

シリーズ・さまざまな研究所を巡る(第3回)〜JAXA、宇宙から地上へ有益な情報発信〜

厚木エレクトロニクス 加藤 俊夫

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1. はじめに

 JAXAでは、各種の地球観測衛星を打ち上げ、地上の状況を観測して我々の日常生活に有益な情報を提供している。

 どのような情報をどんなセンサで観測されているのか、広報部、主任の藤本信義氏にお伺いした。

 現在、宇宙ステーション、地球観測衛星、静止衛星など各種の人工衛星が上空を回っているが、それぞれの高度について皆様には常識かもしれないが図1に示す。

 

 地上を観測するには、高度が低い方が望ましいが、地上からの高度が400kmより下回ってくると空気(或いは各種の原子、分子)の存在が影響して人工衛星の減速が早くなり、長期間一定の高度が保てない。

 そこで一般には地球周回の観測衛星は600~800kmより上の高度を回っている。

 地球観測衛星には多くの観測機器が積まれているが、その様子を気象変動観測衛星「しきさい」の観測機器(SGLI)を図2に示す。

 

 観測用には、①可視・近赤外放射計(VNR)と、②赤外走査放射計(IRS)を備えている。

 この図で、恒星センサは太陽系外の恒星を観測して天球地図と比較して衛星の向いている方角を正確に知るのに用いられ、地球センサは地球のエッジ部分を観測して衛星の地球への向きを正確に知るのに使われる。

 日本では、1987年以来多くの地球観測衛星を打ち上げているが、現在も観測に用いられている衛星は、表1 のようになっている。

 

 図3は、観測データを地上に送り、現業機関へ提供するとともに、一般ユーザーへもインターネットで提供しているルートを「しきさい」の場合を例に示したものである。

 

 以下、観測項目毎に見て行くことにする。

 

2. 大気環境

 平成30年、気候変動観測衛星(GCOM-C1)が、高度800km、周期101 分の太陽同期準回帰軌道に投入された。

 地球規模での大気や雪氷の状況を長期に継続観測し、気象予測や気候変動メカニズムを解明するためである。

 積んでいる観測機器は、「可視・近赤外放射計(VNR)」と「赤外走査放射計(IRS)」で、広い波長域(380nm ~12μm)をカバーし、衛星直下で約1㎞~250mの空間分解能をもっている。地上からの反射光の波長によって何が観測されるかを図4に示す。

 

 衛星重量2100kg、発生電力4000Wである。

 「可視・近赤外放射計(VNR)」では、偏光観測2本と非偏光観測3本の鏡筒が搭載されており、図5は地上を走査する様子で、1150km 幅の画像を6000画素で撮影している。

 

 受光素子はCCDイメージセンサで、6000画素、11ライン、画素サイズは13μm 角であり、多画素を加算して1 画素にするなどの信号処理を行う。

 「赤外走査放射計(IRS)」は、1.05~12μmの6チャンネル放射計で、地上1400kmを観測する。入射光は、ダイクロイックミラーで短波長赤外を熱赤外に分光して検出器に導入される。

 短波長赤外の検出はInGaAsの光起電力タイプで、熱赤外の検出はHgCdTe の光起電力タイプである。

 ミクロン程度の微粒子であるエアロゾルの測定は、粒子の大きさで測定波長も異なり、陸では主に近紫外~可視、海洋上では赤~近赤外のチャンネルが利用される。

 

 図6は、過去の観測衛星によるものだが、中国で発生した森林火災による煙が、日本の東北地方へ流れてきた様子を明瞭にとらえた写真である。

 

 毎年、ゴビ砂漠からくる黄砂なども鮮明にとらえることができ、予報などに活用されている。

 温室効果ガス観測のため打上げられた「いぶき2 号」は紫外線領域の観測センサを積んでおり、図7のように野焼きで発生した黒色炭素(すなわち煤)の明瞭なデータを撮ることに成功している。

 

3. 海洋環境、水資源

 水に関する観測には、2012 年5 月に「しずく」が打ち上げられ、マイクロ波放射計(波長1~10cm、周波数3~30GHz)で観測が行われている。マイクロ波は水の有無やその状態に敏感に反応し、雲があってもその下を観測でき、雲や大気の情報も得ることができる。

 「しずく」が観測している水に関する情報は図8のように、雲水量、空の水蒸気量、降水量、積雪量、大気の凝結、地面からの水分蒸発量、河川の流量、土壌の水分、海面水温、海上風速などがある。

 

 図9は、世界の積算水蒸気量で、西太平洋の水蒸気が非常に多いことが見てとれる。

 

 この図を見せられると日本の南方で台風が次々発生する感じがしてくる。

 温度の観測には、「しずく」のようなマイクロ波による観測に加え、10.8μmの熱赤外も用いられ、地表の表面温度を知ることができる。

 この波長は大気の透過率が高く、海面、陸面、雪氷面の温度を測定できる。

 図10は、「しきさい」が観測した房総半島沖の海水温で、南から来た黒潮と北から来た寒流がぶつかっている様子が良く分かる。

 

 このような海水温によって魚群の位置が推定できるので、漁業には大いに役立っている。

 

4. 環境問題に関する観測

 図11は、北極海の海氷面積である。2018年9月21日に最小面積(446万平方㎞)を記録した。

 

 北極海の年間最小海氷面積は2000 年代まで減少傾向にあったが、ここ数年はその傾向にやや歯止めがかかっている。

 二酸化炭素の排出量が増えて、北極海の氷が減少していると騒がれ、今後も衛星からの観測データが重要となる。

 図12は、南極と北極のオゾンホールである。オゾンは生物に有害な紫外線を95%も吸収するので、オゾン層が破壊されると生物に重大な影響を及ぼすと言われている。

 

 フロンガスなどがオゾン層を破壊するので、この対策が取られているが、フロンガスがオゾン層まで達するのに10年掛かるので、これからも当分の間オゾンホールが広がる恐れがあり、衛星による監視が重要となっている。

 

5. 生態系、農業

 植物の健康状態は電磁波の反射率の違いで分かる。

 図13のように若い葉は反射率が大きく、枯れた葉は小さい。

 

 稲作のでき具合や、いろいろな農産物の成長状況なども観測でき、農作業の管理に役立てられている。

 図14は、冬の千葉県房総半島の植性を撮った写真で、植物からの反射光で植性を見るには近赤外線を用いる。

 常緑針葉樹と落葉樹がはっきり区別され、芝生が色褪せる時期のためゴルフ場が薄く写っている。


 以上、地球観測衛星で得られたデータを示したが、JAXAからいただいたデータはもっとはるかにたくさんあり、今回はほんの一部を取り上げただけである。

 衛星からの信号では、GPSなどに代表される測位衛星による位置や時刻の確認が重要であるが、日本の測位衛星「みちびき」のシステムは内閣府が所管している。

 漏れ聞くところでは、宇宙ビジネスが数十兆円になるとか。

 筆者はその内容を知らないので、どこまで本当か知らないが、今回述べたような観測がますます多彩になり精度が向上すれば、地上での活用が進み、経済的な効果も非常に大きい。

 JAXAの皆さまの健闘を期待したい。

 

厚木エレクトロニクス 加藤 俊夫

国内唯一の実装技術専門誌!『エレクトロニクス 実装技術』から転載。
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