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編集企画 その他 2021.04.16

画像でひも解くクリーンルームでの発塵

クリーンサイエンスジャパン/園田 信夫

画像でひも解くクリーンルームでの発塵

 


1. はじめに

 

 作業室内のクリーン化は不良率低減に直結し、その管理運用技術は重要な品質管理の手法として定着している。

 従来から、パーティクルカウンター等で作業室内の清浄度の監視は行われていたが、製品の表面異物管理や発塵源の追究とその対策や監視に関し、苦戦を強いられている現場も多いと思う。

 そのような場合、発塵源やその動きを動画で解析する例も増えている。

 一説では写真一枚で2000文字に相当すると言われているが、動画は文字による表現力を確実に上回り、理解するのに効果的である。

 動画は発塵の瞬間や塵埃の流れを捉えることができるのでパーティクルの測定データーや異物分析等とは違う直截的な情報をもっている。

 今回、発塵源や塵埃の様々な動きについて発塵の動画の中の1コマを静止画像として再編集し、発塵の様子のいくつかを解説する。

 なお、発塵関連動画撮影はグリーンレーザーを用いて散乱光を高速度カメラで可視化したものである。

 

 

2. クリーンルーム内での発塵の画像

 


1.クリーンルーム内のガラスビーズの舞い上がり

 

 ●図1にClass1000(Fed.Std.206D)のクリーンルーム内でガラスビーズ粒子(代表粒径50μmφ)落下させたときの、舞い上がり様子を示す。

 図中(a)は撒布時の粒子が落下する様子で、図中の矢印は床面に到達し反跳で舞い上がって来た状態を示している。

 図中(b)は、その数分間後に、粒子が実験者の腕や腰の部分まで上昇し浮遊していることが分かる。

 このように多量の粒子や粉体の落下は、床面に到達後、舞い上がって数分間浮遊する。

 この浮遊塵埃は気流に乗って拡散し汚染の原因となるので注意が必要である。


図1 ガラスビーズ撒布時の床面からの舞い上がり(a)(b)

 

2.エア吹き出し口の気流の動き

 

 ●図2にエア吹き出し口からの清浄エアの動きを、スモークテスタを用いて観察した例を示す。

 エア吹き出し口の中央部は気流風速が大きく清浄エアは直下するが、その周辺領域は清浄エアがその場の滞留エアを巻き込み乱流となって渦が発生する。

 このため、この流域の滞留エア中に含まれる塵埃は清浄エアと混じりあい希釈される濃度は下がるが清浄度は期待するほど上がらない。

 清浄エアは乱流ではなく層流(Laminar flow)であって、ピストン流(Piston flow:あたかもところてんを押し出すイメージ)で滞留エアを押し出して清浄エアと置換させるのが理想である。

 このように、エア吹き出し速度が大きいと乱流域となるので層流域が形成されるように気流速度の制御が必要である。


図2 エア吹き出し口の気流の動き

 

3.引きよせ動作による塵埃の乱れと浮遊

 

 ●図3に作業者が上腕を振って塵埃として用いたガラスビーズ(代表粒径50μmφ)を引きよせた様子を示す。

 約1m離れたガラスビーズも上腕振りで引き寄せると約2秒で作業者の周りに到達し、そこで浮遊しながら作業者に纏わりつくことが分かる。

 この纏わりつきは数分間にも及ぶ。

 さらに塵埃は無塵服に付着し、作業者の歩行や動作によって移動し拡散することになる。

図3 作業者による塵埃引き寄せ動作による塵埃の乱れと浮遊

 

4.気流の乱れによる塵埃の動き

 

 ●図4に塵埃にコットンリンターを用いて散布し浮遊させ、斜め上からおおよそ0.15m/sの小さな気流の変化を与えたときの塵埃の動きを示す。

 図中左の気流が大きい領域では塵埃の画像も中央部の浮遊域に比べて移動速度に応じて長くなり、気流速度の差によって渦状に動いていることが分かる。

 一般に塵埃は軽いので、気流に乗って動き回る。

 クリーン化にとって気流の流れを知ることは、気流を制御するっことで製品の異物汚染防止に繋げることが可能となる。

図4 気流の乱れによる塵埃の動き

 

5.足踏み動作による塵埃の舞い上がり

 

 ●図5に塵埃として用いたガラスビーズ(代表粒径50μmφ)を床面に堆積させた後、作業者がその位置で片足での足踏みした時の塵埃の舞い上がりを示す。

 足踏みしたときの気流の発生で50μmの塵埃は前方向に流れるだけではなく前方約2m先まで達している。

 また、一部はおおよそ腰部まで舞い上がっていることが分かる。

 このように床に堆積したビーズは歩行動作によって舞い上がり歩行で発生した気流に乗って飛散する。

 また、歩行すると足脚の後ろ側も、引きずるように後方2mまでビーズが浮遊することが確認される。

 さらに、これらの舞い上がった塵埃は当然ながら無塵服靴や作業者の足脚にも付着する。

 この動画撮影後、無塵靴と無塵服の足脚の部分をはたくと相当な塵埃が付着していることが確認された。

 このことからエアシャワー内で作業者の上半身の塵埃を落とすことも大事だが、それ以上に足脚部の除塵がさらに重要であると思う。

 一般に歩行動作は気流の乱れの原因なので、塵埃を舞い上げてしまう。

 これに対して、歩行や作業動作をゆっくり行うことで塵埃の舞い上がりを抑制することができる。

図5 足踏みした時の塵埃の舞い上がり

 

6.錆びた金属棒からの発塵

 

 ●図6に錆びた金属棒からの金属片の落下を示す。

 図は錆びた金属棒(実際にはペンチ)をドライバーで擦ったときの発塵を示している。

 白く光って見える塊状のものが発生した塵埃で、相当な数の塵埃が飛散し落下していた。

 金属の錆は脱離しやすく、飛散や落下の原因となる。

 電子部品に金属異物が付着すると電気的を引き起こす。

 一般に製造工程の中では、裁断・研磨・穴あけ・研削などの機械加工がある。

 これらの工程では加工に付随して金属粉や金属片は間違いなく飛散している。

 加えて、装置の摩擦・摺動部や同様である。

 機械加工の工程において、目視レベルの切削粉や摩耗粉は数秒以内に周辺のおおよそ3mの範囲に飛散する。

 中でも数十ミクロンの金属微粉は、気流に乗って浮遊塵埃として作業室内に飛散する。

 また、切削油等が混在すると研削・摩耗粉等も抱き込むために油の酸化も重なって黒褐色の粘性の高い付着物となる。

 また、ネジ締め・嵌合・はんだ付け等の組立作業も見えないレベルの発塵がある。

 このような理由から機械加工の作業室は隔離し金属汚染の防止をしなければならない。
 

図6

 

7.気流の落下による渦の発生

 

 ●図7に気流による渦の発生を示す。

 台上にペットボトルを横にして置き、その上から別のペットボトルに詰めたタバコの煙を真上から落としたときのたばこ粒子の流れを示している。

 落下したタバコの煙は台上とペットボトル近傍で両側に潜り込み渦を巻いていることが分かる((+)部分)。

 このように、気流が衝突する角部Rの形状は制御の対象である。

 装置のコーナー部や、急激な拡大縮小を伴う形状や段差部では渦を発生させる性質がある。

 一般的に、塵埃は気流に乗って浮遊するため、このような渦が発生すると気流の運動エネルギーは接触による摩擦で失速し消失する。

 このため、この気流中に含まれる塵埃は、この近傍で落下し堆積する。

 実際の作業室では壁側や配線ケーブル、装置の裏側・底部など、気流が小さくなった場所に塵埃が多く堆積する。

図7 気流による渦の発生

 

8.静電気による塵埃の吸着

 

 ●図8に静電気による塵埃の吸着を示す。

 垂直にした透明PET板に+5kVに帯電させた状態で塵埃として用いたコットンリンターを上から落下させたときの、PET板に付着する塵埃の様子を示す。

 図中右側のPET板に塵埃が吸着する様子が分かる。

 一方、PET板下側やその他に横方向に長い線(痕跡)が走っている。

 これは、(+)(-)に分極していた塵埃がPET板(+)との瞬時の接触で(-)が中和で消失し(+)荷電のみとなったため反発し反跳したものである。

 このような吸着現象はクーロン力(Coulomb’ force)に起因している。

 静電気には(+)と(-)があるが、異なる極性では吸着力(吸引力)、同極の場合は反発力(斥力)が働く。

 物体に蓄積した静電気は瞬間的にノイズの放出と共に放電する現象がある。

 これをESD(ESD:Electrostatic Discharge)と呼ぶが、主に制御基板のIC回路で放電すると、ICは破壊することで知られている。

 また、静電気によって帯電したときは塵埃を吸着し易くなる。

 この性質をESA(Electrostatic attraction)と呼ぶ。

 したがって、図はESAを示している。

 作業室内のクリーン化において、ESA対策は必須となっている。

 このESA対策では、装置・部材・部品の電気抵抗値を下げることや、湿度管理、アース接地が3大対策である。

図8 静電気による塵埃の吸着

 

9.モップ掛け清掃時の発塵

 

 ●図9に床面のモップ掛けを行ったときの塵埃の舞い上がりを示す。

 図中モップ掛けは左から右方向へ吐き出した。

 このとき、進行方向側のモップ先端上側で塵埃の舞い上がりが見られた。

 通常床掃除は比較的強い力で往復させながら清掃することが多いが、この方法では塵埃の舞い上がりが多く汚染につながり逆効果となることがある。

 モップかけはゆっくりと進行方法に押していくのが基本で、ゴシゴシと往復させてはいけない。

 また、乾式よりも許せる範囲で水を軽く含ませる程度の湿式が塵埃の舞い上がりが少ない。

図9 モップ掛け清掃時の発塵

 

10.無塵靴表面からの発塵

 

 ●図10に作業室内で約1か月着用した無塵靴表面からの発塵を示す。

 図中矢印部に発塵が見られるが、これは靴底やつま先部分からの発塵ではなく、くるぶしから上側のゲートル部分からのものである。

 床面に塵埃が堆積していた場合、歩行によって塵埃が舞い上がるが、纏わりつくのはくるぶしから上部である。

 床面に接触するのは靴底であり踏みつけられて吸着し黒く汚れるが、踏みつけ部の周りに塵埃は気流によって舞い上がり無塵靴のかかとから上に吸着しやすい。

 運搬台車も同様で車輪に近い軸受けコロ部に塵埃が吸着する。


図10 無塵靴表面からの発塵

11.ポンピング現象

 

 ●図11にポンピング現象による発塵を示す。

 ポンピング(Pumping)とは無塵服の内側の塵埃が開口部となる顔面周りや首周りから気圧差によって外側に吐き出されることを言う。

 あたかも「ポンプ作用」に見えることから名づけられた。

 作業者が胸元を軽く叩くと顔面部から発塵していることが分かる。

 マスクを着用していても顔面周りに隙間が大きいと作業動作によって無塵服内側主に衣服の繊維が放出されるので注意が必要である。

 なお、無塵服の内側で最も気圧差が発生するのは脇の下部分である。

図11 ポンピング現象

 

12.無塵手袋装着時の発塵

 

 ●図12にニトリルゴム製無塵手袋を装着時の発塵を示す。

 無塵服手袋自体の発塵は少ないが、装着や脱着時には、無塵服の袖部から相当な発塵が見られる。

 これは無塵服内部の作業者のシャツやセーターからの脱落繊維等が無塵服袖の絞り部に蓄積しており、これが脱着や装着動作で一気に放出されるからである。

 作業室内での手袋の脱着や装着は禁止行為である。

図12 無塵手袋からの発塵

 

13.不織タイプの拭き取り材からの発塵

 

 ●図13に不織タイプの拭き取り材からの発塵を示す。

 この拭き取り材は低価格であることから、非クリーンルーム作業室で低価格であることから広く用いられている。

 この拭き取り材を軽く擦り合わせると多量の繊維屑が放出されることが分かる。

 不織タイプの繊維には他にもコピー紙、ノート、ティッシュペーパー、段ボール紙などがある(●図14、●図15)。

 これらのすべては基本的にクリーンルームへの持ち込みは厳禁である。

 発塵が少ないクリーンルーム専用の拭き取り材を用いるべきである。

 無塵紙や無塵ノートは繊維間に樹脂を含侵させて繊維の脱離を防いでいるので当然ながら使用可能である。

図13 不織タイプの拭き取り材からの発塵

図14 普通紙からの発塵

図15 不織布からの発塵

 

3. まとめ

 

 今回紹介した発塵の動画からの画像は一例であるが、基本的な現象は取り上げている。

 また、基礎知識に加えてクリーン化の考え方を随所に書き示した。

 これらの画像がヒントとなり、実際に現場で見直してみる動機となれば幸甚である。

 今回、紹介しなかったが、靴下・セーター・段ボールなどの発塵や、作業動作や静電気関連の可視化について、まだまだ興味深いものが多くある。

 機会があれば紹介したい。

 

 

クリーンサイエンスジャパン/園田 信夫

国内唯一の実装技術専門誌!『エレクトロニクス 実装技術』から転載。 最新号、雑誌の詳細はこちら

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